新幹線駅の近くに残る裏歴史──久留米・池町川周辺の青線跡

福岡県久留米市。2011年の九州新幹線開通に合わせて全面リニューアルされたJR久留米駅は、レンガ調とガラス張りを組み合わせたモダンな外観を誇り、地方都市の玄関口とは思えないほど洗練された近代的な雰囲気に包まれています。

駅前には、久留米出身で「東洋のエジソン」と呼ばれた発明家・田中久重の生誕200周年を記念したからくり時計や、とんこつラーメン発祥の地らしいオブジェも設置されています。


そんな近代的な駅前ですが、線路沿いを少し歩くだけで、まるで別の時代が取り残されたかのようなエリアが現れます。
駅近一等地の死角に佇む“異質な建物群”
JR久留米駅からわずか150メートルほど。マンションや最新の戸建て住宅が次々と建設されている再開発エリアの中に、ぽつぽつと、周囲の日常から完全に浮き上がった古い木造建築が取り残されています。


場所は、駅から目と鼻の先を流れる「池町川」の周辺。
実はこの一帯には、戦後、公に認められない形で営業を続けていた「青線(非公認の売春街)」が存在し、かつては200軒近い売春宿がひしめき合っていたとも言われています。
さすがにその数は誇張されている可能性が高そうですが、相当な規模の歓楽街だったことは間違いありません。八木澤高明氏の著書「色街遺産を歩く」には、当時を知る初老の男性の証言として、次のような生々しい記憶が紹介されています。
「夕方にもなれば、川沿いには立ちんぼのお姉さんとか、遣り手婆がパイプ椅子を置いて、客を取ったんだよ」
実際にこの川沿いを歩いてみると、まさにその往時の記憶をそのまま閉じ込めたような建物が今も点在しています。
例えば、外壁のモルタルが剥がれ落ち、木造の内壁が露出したこちらの木造家屋。昭和のアングラな雰囲気を残す独特の退廃感が、建物の背後にそびえ立つピカピカの高層マンションとあまりにも残酷なコントラストを描き出しています。

一方には令和の未来を象徴するマンション、もう一方には昭和の影を引きずる木造建築。この歪さこそが、急速に再開発が進む地域にだけ見られる特異な都市景観です。





「桜町遊廓」とのミッシングリンク
久留米の色街の歴史を紐解く上で、外せないのが近くの原古賀町にあった「桜町遊廓(1896年or1897年誕生)」の存在です。陸軍第18師団の軍人たちを相手に栄えた桜町遊廓ですが、1958年(昭和33年)の売春防止法施行によってあえなく終焉を迎えます。

公式な記録がほとんど残されていないこの池町川周辺の盛り場ですが、桜町遊廓の解体によって行き場を失った女性たちや旅館機能の一部が、利便性の高い「駅前の池町川周辺」へと流れ着き、戦後の青線地帯として独自の発展を遂げたのではないか――。
2つの位置関係や歴史のタイムラインを照らし合わせると、そんな哀愁漂うミッシングリンク(繋がりの仮説)が浮かび上がってきます。地図を眺めながら、土地の成り立ちに想像を膨らませるのも、裏街歩きの醍醐味です。
時代に侵食される、売春宿「まごころ荘」の行方
現在の池町川周辺は、一見するとどこにでもあるごく普通の住宅街へと急速に変貌を遂げています。

その冷徹な新陳代謝を象徴しているのが、道すがらに見つけたこちらのアパートです。
実は先述した「色街遺産を歩く」のページ内には、見開きで「まごころ荘」という名の、かつて売春宿だったという写真が堂々と掲載されていました。その遺構をこの目で拝もうと現地で血眼になって探したのですが、どうしても見つけることができません。

残念な気持ちで後からGoogleストリートビューの過去の履歴を遡ってみたところ、デジタル空間がその切ない答えを教えてくれました。
かつて確かにそこにあった「まごころ荘」は、2020年の時点ではその姿を留めていたものの、その後取り壊され、跡形もなく現在の新しいアパートへと建て替えられていたのです。本に載っていたあの生々しい光景は、すでに令和の日常によって完全に上書きされていました。

近くには、同じような立地の古いビジネスホテルも残っていましたが、ここもそう遠くない将来、同じように姿を変えてしまうのでしょうか。街並みが移りゆくのは時代の必然ではありますが、だからこそ「今かろうじて現存するもの」を、記録(写真と文章)としてデジタルに刻んでおきたいという衝動に駆られます。

まとめ:マンションの足元で静かに眠る都市の履歴書
現在の池町川周辺は再開発の波が激しく、あと数年もすればこれらの古い建物も完全に姿を消してしまうかもしれません。しかし、そのありふれた風景の境界線には、
- 近代的な新幹線駅のすぐ脇に潜む、青線の記憶
- 最新マンションと元売春宿が織りなす圧倒的なコントラスト
- ストリートビューの中にだけ生き続ける「まごころ荘」の幻
- 静かに閉業を迎え、住宅街に溶け込んでいく転業旅館の輪郭
といった、久留米という都市が激動の昭和を生き抜いてきた「光と影」の影の部分が、消えかけのタトゥーのように刻まれていました。
華やかな駅前広場から、ほんの数歩。
そこには、再開発の波が押し寄せる中、今この瞬間も静かに息を引き取ろうとしている、愛おしくも切ない「都市の裏歴史」が眠っていました。
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【スポット情報・アクセス】
・訪問スポット:久留米・池町川周辺
・住所:福岡県久留米市中央町(Googleマップで開く)
・全国珍スポMAP(遊廓 / 赤線青線などジャンル別に絞り込みできます)




